今回は、別名、長寿遺伝子と呼ばれる、サーチュイン遺伝子について解説します。
実は、皆さんの身体には等しく、サーチュイン遺伝子(Sirtuin 1~7)が存在します。
そして、その活性化により、健康寿命が延びると考えられています。
嘘の様な本当の話です。
古来より、不老不死は人々の夢でした。
スイッチを一つ押すように。ある遺伝子を活性化させるだけで、健康寿命が延びとしたら。
そんな遺伝子を見つけることが出来たならば。
現代の金脈、油田を探り当てる様なものでしょう。
しかしながら、その様な遺伝子を、ヒトという複雑な対象で探り当てるのは、雲を掴む様な話です。
そこで、『絞り込み検索』をして、スクリーニングが有用です。
遺伝学の出番です。
ヒトよりも、もっと単純な生物モデル。
ラット、マウス、ショウジョウバエ、線虫、そして、酵母。
酵母とは、生命の基本単位とされる細胞、一つから成ります。単細胞モデルです。
世界で最も、シンプルな、生物モデル、酵母。
この酵母で、スイッチをオンにするだけで、健康寿命が延びる様な遺伝子を探り当てる。
そして、その遺伝子の型と類似の遺伝子を、人間という種で見つけると良いだろう、という思考回路です。
世界中の研究者たちが、Gold Diggerよろしく、シノギを削ることになります。
世界に先駆けて、マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究グループが、その活性化で寿命が延びる、sir2遺伝子(サーツーと読む)を発見します。
結論から言えば、このsir2遺伝子のホモログ(人間という種で相当するもの)がsirtuin1遺伝子(サーチュインワンと読む)となります。
そして、同様の型の遺伝子が人間では1~7番まで存在し、sirtuin1~7の総称がサーチュイン遺伝子となる訳です。
2009年、世界で最初にsir2遺伝子による寿命延長効果を記載したのは此方の論文(無料公開)。
詳細はリンク先の原著論文をご一読いただきたいのですが、生存曲線に差が生じているのが伝わると思います。
遅れること2年。2011年には、異なる生物モデルである線虫(C elegans:シーエレガンスと読む)でもsir2遺伝子の活性による寿命延長効果がNature(有料公開)で報告されます。
こうして、健康寿命の延長が現実味を帯びる話となってきました。
酵母 : sir2遺伝子の活性化 → 寿命延長!! (確定情報)
線虫 : sir2遺伝子の活性化 → 寿命延長!! (確定情報)
人間 : sirtuin1遺伝子の活性化 → 寿命延長!? (仮説情報)
の構図が出来上がる訳です。
まさに、遺伝学による『絞り込み検索』の恩恵です。
では、このsir2遺伝子やsirtuin1遺伝子は、身体の中で、実際に何を行っているのでしょうか。
ここからは、「寿命が延びたのかどうか」という全体像を掴む遺伝学ではなく、部分部分を詳細に把握していく、生化学や分子生物学などの出番です。
一つの学問”だけ”で本質を理解することは難しく、必要に応じて必要な切り口の学問を”使い分ける”ことが、科学者には重要です。
此方も、結論から。
『sir2 = silent information regulator 2』
です。
即ち、(遺伝子などの)情報を鎮静化する司令塔、No.2を文字通り意味します。
No.2ということは、他にもNo.1,3,4等が存在しますし、先述の論文でもその存在は記載されています。
単に、No.2が一番、効果が意味をもつ存在だったというだけです。
sir2遺伝子から作られるSIR2タンパク(※)は、例えるなら、遺伝子をクリーニング(専門用語:ヒストン脱アセチル化)しています。
(※遺伝子が小文字表記なのに対し、その遺伝子から設計されるタンパク質は大文字表記されるのが一般的。)
個体がもつ遺伝情報の一つ一つは、DNA二重らせん構造をしています。
そして、そのDNAのうち、何かしら意味を持つ(対応するタンパク質をつくることが出来る)部分が遺伝子と呼ばれています。
日常生活をしているだけで、DNAにはメチル化、アセチル化、という、アクセサリーの付着が行われます。
タバコを吸ったり、アルコールを飲んだり、肥満になったり。或いは、通常の呼吸に伴うPM2.0の吸入でも。
当然、その一部は、遺伝子の部分にも作用します。
・(綺麗な状態の)遺伝子 → 正しいタンパク質
・(汚れた状態の)遺伝子 → 異なるタンパク質 or そもそも生成されない
の構図が分かりやすいですね。
元々の設計図である遺伝子にエラー情報が入ると、正しいタンパク質は生成されません。
こう考えると、遺伝子を綺麗な状態に保つ、SIR2タンパクの重要性が伝わると思います。
「遺伝子をクリーニング(専門用語:ヒストン脱アセチル化)」 = 「遺伝子レベルでの混乱情報を鎮静化すべく、司令塔の役割」
を果たしている訳です。
こう考えると、如何に、サーチュイン遺伝子の活性化に夢があるかが伝わります。
サーチュイン遺伝子を活性化させる物質として、現在、主に3種類が世間一般では認知されています。
・レスベラトロール
・NMN
・5デアザフラビン(TND1128)
です。それぞれの成分については、別記事をご参照下さい。
遺伝学は、細かいことを無視して、寿命が延びるか延びないかだけを考えることを可能にします。
仮説を立てるには、極めて強力な手法ですが、他の生物モデルで得られた結果を人間でも検証するには、時間が掛かります。
そう、寿命を扱うからこそ、人間という種で結果が出るには、今後、数十年の時を要する訳です。
それ故、各種サーチュインブースターの摂取は、
・摂取した自分自身
・摂取しなかった自分自身
を天秤にかけて、リスクとリターンを考慮した上で、摂取する様にして下さい。
現時点では、人類で、その結果を知っている人は誰もいません。
Nobody knows.
科学って、面白いですね。