ミトコンドリアとは何か

2023.01.06 更新

5ALAやNMN、5デアザフラビン(TND1128)など、世間は長寿サプリが話題です。

その主機能として、ミトコンドリアの活性化も取りざたされています。

「ヒトの身体のエネルギーの95%はミトコンドリアで生成されている。だから、ミトコンドリアを活性化させるサプリを摂取しよう!」と。

本当でしょうか。今回は、このミトコンドリアについて深堀りしてみましょう。

 

 

そもそも論、ミトコンドリアとは細胞内小器官の一つで、全ての細胞の内部に数百~数千個存在します。

その重さは、ミトコンドリアだけで生物個体の全体重の10%を占めるとも言われています。

そして、ミトコンドリアと他の細胞内小器官との最大の違いが、その遺伝情報の由来です。

・他の細胞内小器官 → ヒトゲノム(古細菌に由来)

・ミトコンドリア  → ミトコンドリアゲノム(真正細菌に由来)

を有しており、本来別の生物が、現在の人間という種の中で共存していると考えらえています。

そして、このミトコンドリアゲノムは、母系でのみ遺伝することも知られています。

 

 

形状も由来も特殊なミトコンドリアの主機能は二つ。

①エネルギーの生成

②アポトーシスの誘導

です。

 

 

①については、よくサプリメーカーなどが喧伝する様に、

「ヒトの身体のエネルギーの95%を生成」しています。

実際には、ATP(アデノシン三リン酸)と呼ばれるものです。

このATPは、エネルギーの基軸通貨みたいなものです。

ATPを介して、細胞の内部で各種反応が引き起こされているのです。

 

実際には、

AMP ↔ ADP ↔ ATP

(M:mono、D:double、T:triple、です。P=リンが一つ、二つ、三つ、と、串団子の様なイメージが近いです。)

という変換を通じて、細胞の内部でエネルギーの交換を行っています。

 

余談ですが、この細胞内の代謝の仕組みを感知する物質の一つに、AMPK(アンプキナーゼと読む。AMPのキナーゼと思って下さい。)が存在します。

サーチュイン遺伝子や、他のmTORなど、長寿や健康、老化に関連する物質との関係性などが、日々検証されています。

 

実際に、40歳を過ぎると、生体内で十分なエネルギーの確保が出来ず、各細胞や組織、臓器は機能低下を来し始めると言われています。

ミトコンドリアブースターの投与により、エネルギーが十分に行き渡り、イキイキと過ごすことが出来ることは、あながち嘘ではありません。

エネルギー不足で十分な活動が出来ない細胞、組織に対して、ミトコンドリアの活性化によるエネルギー(ATP)供給を行う訳です。

冒頭の5ALAやNMN、5デアザフラビン(TND1128)の投与にも、一定の根拠があります。

 

 

もう一つの主機能が、②アポトーシスの誘導、です。

アポトーシスとは別名、細胞の自殺、とも呼ばれます。

これとよく対比されるのが、細胞の他殺、ネクローシスです。

このアポトーシス、一体全体、何がそこまで重要なのでしょうか。

 

例えて言うなら、細胞のリサイクルです。似たような概念にオートファジーが挙げられます。

オートファジーが細胞の”部分”、細胞内小器官などをリサイクルするのに対し、アポトーシスは細胞の”全体”をリサイクルします。

そして、規則正しく、その細胞を死滅させた結果、周囲の細胞に対して有用な物質を提供することになります。

尚、ミトコンドリアという細胞内小器官(細胞の”部分”)に対するオートファジーは別名、マイトファジーとも呼ばれます。

やはり、アポトーシスとは別の概念です。

 

細胞にも分裂回数の限界、寿命に相当するものがあり、ひとたび限界を迎えた細胞は”老化細胞”と呼ばれる存在となります。

この限界を突破して細胞分裂を続けると、”がん細胞”になることが知られており、個体の身体を守る防御機構とも言われています。

一方で、体内に残存する老化細胞は、周囲に炎症を起こし、糖尿病や高血圧などの生活習慣病を引き起こします。

SASP(細胞老化随伴分泌症候群)と呼ばれる症候群です。

内臓脂肪として知られる脂肪細胞が、周囲に炎症を起こし、糖尿病や高血圧などの生活習慣病、を引き起こす。

メタボリックシンドロームと同様の状況です。

 

老化細胞は通常、免疫細胞によって貪食されるか、或いは、アポトーシスにより死滅します。

しかしながら、老化に伴うと、多くの老化細胞が残存するのが常。

この治療の為には、老化細胞を取り除けばよく、老化細胞除去薬という治療法が注目されています。

しかしながら、もし仮に、ミトコンドリアの”調整”により、②アポトーシス誘導が上手く機能すれば?

実は、ミトコンドリアブースターは、②アポトーシス誘導という機能により、老化細胞”消滅”薬になる可能性もあり得るかと。

 

 

ミトコンドリアの活性化により、①エネルギー生成、②アポトーシス誘導、といった抗老化作用も期待できることが分かりました。

では、どういう方が、ミトコンドリアブースターを摂取すべきなのでしょうか。

 

第一義には、先天的にミトコンドリア機能異常による難病の方(遺伝真摯)。ミトコンドリア病と呼ばれるものです。

次に、生活習慣でミトコンドリアの機能低下を来している一般の方(環境因子)。

例えば、

膵β細胞  →  糖尿病(インスリン分泌能低下)

腎細胞  →  慢性腎不全(濾過機能低下)

脳神経細胞  →  認知症

等が、代表的な(後天的に、無自覚のうちに進行した)ミトコンドリア機能異常の一例です。

 

ミトコンドリアブースターは主に、

・5ALA

・NMN

・5デアザフラビン(TND1128)

等が取りざたされています。

これらは、投与量や投与方法、生体内の吸収効率、などの検証が必要です。

体感があるものも、乏しいものもあるかと思います。

 

 

現在、私がもっとも注目しているのは5デアザフラビン(TND1128)です。

理由は、実験室のデータでは、5ALAよりもミトコンドリア活性が強いとされるNMNの、その更に数十倍ミトコンドリア活性が強いから。

銀座アイグラッドクリニックでは、倫理審査委員会の承認の上で、観察研究を行っております。

日常診療でも、仮説検証を行っており、無自覚のうちにミトコンドリア機能低下による不具合を来していた患者の方の多さに驚いています。