「オートファジーって何?」「老化防止にも効果があるの?」
と気になっている方もいるのではないでしょうか。オートファジーとはなにか、老化にどんな効果を及ぼすのかを紹介します。
オートファジーは細胞内の不要物を分解し、健康を維持する重要な役割を果たします。この記事では、オートファジーの基本的な仕組みと健康効果、さらにオートファジーを活性化する具体的な方法を解説しています。
目次
オートファジーとは細胞を分解するシステム
オートファジーとは細胞を分解するシステムのことです。私たちの身体は、約37兆個もの細胞が集まってできています。細胞は、古くなったタンパク質や不要な細胞の一部を分解し、新しいものを作ることで常に新しい状態を保っています。新しい状態を保つべく、一連のプロセスを担うのが「オートファジー」です。
オートファジーの基本的な仕組み
オートファジーは、細胞内の不要なタンパク質や細胞小器官を特殊な膜で包み込み、リソソームという器官に運びます。リソソームは、細胞内の不要物を分解するゴミ処理場のような役割を果たします。分解された物質は、新しいタンパク質やエネルギー源として再利用されます。
オートファジーの役割
オートファジーは、細胞の健康を保つために以下のような役割を担っています。
- 細胞の掃除:古くなったタンパク質や細胞小器官を分解し、細胞内をきれいに保ちます。
- 栄養の供給:栄養が不足したときに、自身のタンパク質を分解して栄養に変え、細胞の生存を維持します。
- 有害物質の除去:細胞に侵入した細菌やウイルス、異常なタンパク質を分解し、細胞を守ります。
オートファジーと老化の関係
オートファジーは、年齢を重ねるにつれて働きが低下していくことが知られています。オートファジーの機能が低下すると、細胞内にゴミが溜まりやすくなり、細胞の老化が進んでしまいます。老化が進むと、さまざまな病気のリスクが高まる可能性があります。
老化はミトコンドリア*1と内部細胞質網で生成される活性酸素種(ROS)の過剰な存在による酸化ストレスを引き起こします。
*1:細胞内のエネルギー工場(内部細胞質網は細胞内のタンパク質の合成や輸送を行うところ)
ROSは、細胞の活動に必要な酸素から発生する、排気ガスのようなものです。ROSが増えすぎると、細胞が錆びついた状態になり、酸化ストレスで細胞の機能が低下してしまいます。酸化ストレスが増加すると、神経変性疾患や心血管疾患などのリスクも高まってしまうので注意が必要です。
オートファジーは、毛包幹細胞*2と真皮乳頭細胞*3との相互作用に影響を与え、機能不全により脱毛を引き起こす可能性もあります。
*2:髪の毛を作るもとになる細胞
*3:毛包幹細胞に栄養を与えたり、増殖を促したりする役割
オートファジーの機能が低下すると、細胞間の情報伝達がうまくいかなくなり、髪の毛が作られにくくなってしまうと考えられています。オートファジーは私たちの健康を維持するため・老化を防ぐために必要不可欠なのです。
オートファジーの活性化方法
オートファジーは、細胞内の不要物を分解するだけでなく、細胞内のエネルギー産生や免疫応答などにも関与しています。健康を維持するために欠かせないもので、オートファジーは老化や病気の予防にも効果があるとして注目されています。
オートファジーの活性化方法について、断食・運動・睡眠の観点から解説していきます。
断食とオートファジーの関係
オートファジーは、細胞が飢餓状態に置かれると活性化することが知られています。断食をすると、身体はエネルギー源として脂肪を分解し始めます。分解されるタイミングで、オートファジーも活性化し、細胞内の古くなったタンパク質などを分解して、新たなエネルギーを作り出そうとするのです。
代表的な断食は以下の2種類です。
- 時間制限断食:1日の中で食事をする時間帯を制限する
- 1日のうち1食または2食を抜く「プチ断食」
例えば、毎日午後8時から翌日の正午までを断食時間とする「16時間断食」は、比較的実践しやすい方法として人気があります。この時間帯は睡眠時間も含むため、空腹を感じにくく、無理なく続けられるというメリットがあります。
断食は、オートファジーを活性化するだけでなく、インスリン感受性の改善や体重管理・炎症の抑制など、健康効果が大きいです。体調や体質によって影響が異なるため、無理せず、ご自身の体調に合わせて断食しましょう。持病がある方や妊娠中の方などは、事前に医師に相談してから判断しましょう。
適度な運動とオートファジーの関係
運動もオートファジーを活性化させる効果があります。筋肉細胞に軽い負荷をかけることで、オートファジーが活性化し、損傷した細胞の修復を促進します。結果的に筋肉はより強く、健康な状態へと生まれ変わるのです。
運動することで産生されるROSは、細胞にダメージを与える一方で、適量なら細胞の防御機構を活性化する役割もあります。活性酸素種によって活性化されたオートファジーは、細胞内のタンパク質やミトコンドリアなどを分解し、細胞の修復を促進します。
オートファジーを活性化させるためには、ウォーキングや軽いジョギングなど、無理なく続けられる運動が効果的です。毎日30分程度のウォーキングでも、オートファジーの活性化が期待できます。運動習慣がない方は、週に2~3回10分程度から始めてみて、少しずつ運動時間や強度を上げていきましょう。
睡眠とオートファジーの関係
睡眠は身体と心の休息に不可欠で、寝ている間に細胞の修復や再生が行われます。睡眠中はオートファジー(細胞の自己浄化機能)が活性化し、傷ついた細胞を効率的に修復します。
成長ホルモンは睡眠中に分泌され、筋肉や骨の成長を促すだけでなく、オートファジーの活性化にも重要な役割を果たすのです。細胞内のタンパク質の合成と分解のバランスが保たれ、細胞の健康が維持されます。
質の高い睡眠を十分に摂ることでオートファジーが活性化し、健康維持につながります。個人差はありますが、一般的に7〜9時間の睡眠が推奨されているので意識しましょう。睡眠の質を高めるには、就寝前のカフェインやアルコールを控え、リラックスできる環境を整えることが効果的です
オートファジーの健康効果
私たちの身体の細胞内には日々ゴミが溜まります。ゴミを掃除するのが「オートファジー」です。オートファジーは、認知症や指定難病でもあるパーキンソン病にも効果があるとされています。オートファジーとパーキンソン病・寿命・睡眠の関係性について紹介しています。
オートファジーと認知症・パーキンソン病の関係
オートファジーは脳の健康維持にも重要です。神経細胞は情報処理で多くのエネルギーを消費し、ゴミが溜まりやすいため、オートファジーによる掃除が必要です。
アルツハイマー病ではアミロイドβ・パーキンソン病ではαシヌクレインという異常タンパク質が蓄積し、神経細胞にダメージを与えます。オートファジーが正常に機能していれば、それぞれのタンパク質を分解し、蓄積を防ぐのが大きな特徴です。
オートファジーの機能が低下すると、異常タンパク質が蓄積し、神経細胞にダメージを与えてしまうので注意が必要です。
オートファジーと寿命の関係
オートファジーは細胞の寿命にも大きく関わっています。私たちは古い細胞を分解し、新しい細胞を作ることで身体の健康を保っている状態です。
オートファジーが活性化すると、細胞内の古いタンパク質や小器官が分解され、新しい材料として再利用されます。つまり、細胞の寿命が延び、身体の老化が遅れると考えられているのです。
実験では、オートファジーを活性化させると線虫やハエの寿命が延びることが報告されています。
オートファジーと慢性炎症の関係
オートファジーは慢性炎症を抑える効果も期待されています。慢性炎症は肥満・喫煙・ストレス・食生活の乱れなどで引き起こされ、動脈硬化や糖尿病・がんなどのリスクを高めます。
オートファジーは、炎症を引き起こす物質を分解して、炎症を抑えてくれるのです。研究では、オートファジーを活性化させると慢性炎症が抑制され、さまざまな病気の予防につながる可能性が示唆されています。
動物実験では、オートファジーの活性化が動脈硬化や糖尿病の進行を抑制する結果が報告されています。
オートファジーの将来展望
細胞は毎日働き続け、古くなった部品やゴミが溜まります。オートファジーは古くなったゴミを分解し、新しい部品を作るための材料として再利用するシステムです。
オートファジーはがん・アルツハイマー病・パーキンソン病などの病気と深く関わっています。いずれの病気も、細胞内に異常なタンパク質が蓄積することで発症します。アルツハイマー病はアミロイドβ・パーキンソン病はαシヌクレインという異常タンパク質の蓄積が原因です。
オートファジーは異常タンパク質を分解することで、病気の予防や治療に役立つと期待されています。
まとめ
オートファジーの研究は、日々進歩しています。近い将来オートファジーを活性化させることで、さまざまな病気を予防したり治療したりできるようになるかもしれません。
オートファジーを活性化するおすすめの方法は以下のとおりです。
- 断食:時間制限断食やプチ断食が効果的
- 運動:ウォーキングやジョギングなどの適度な運動
- 睡眠:質の高い睡眠を十分に取ること
薬が開発されれば、より効果的にオートファジーを活性化させて、健康寿命を延ばせるかもしれません。オートファジーは、健康長寿を実現するための重要な鍵を握っているので、ぜひ知識として知っておきましょう。
そもそもの「老化の原因と対策」については別記事で紹介しているので、ぜひ合わせてご確認ください。
>>老化の原因と対策!なぜ起こるのか?何歳から始めるべきかを徹底解説
参考文献
- Jin X and Song X. “Autophagy Dysfunction:The Kernel of Hair Loss?” Clinical, cosmetic and investigational dermatology 17, no. (2024):1165-1181.
- Chaudhary MR, Chaudhary S, Sharma Y, Singh TA, Mishra AK, Sharma S and Mehdi MM. “Aging, oxidative stress and degenerative diseases:mechanisms, complications and emerging therapeutic strategies.” Biogerontology 24, no. 5 (2023):609-662.