糖尿病に苦しむ患者は、予備群も併せると日本に2000万人程度いると言われています。
血液中の血糖の値が高いと、血管の壁を構成する、血管内皮細胞がダメージを受けます。
結果、血管内皮障害→血流障害→各種合併症を発症、となります。
糖尿病を治療しなくてはならない理由は、この合併症の予防です。
合併症の中には、失明したり、身体の一部を切断しなくてはならなかったり、一般の方がショックを受けるものもあります。
そうならない為にも、早期発見、早期治療が重要です。
この合併症は、主に、ダメージを受ける血管の太さによって、二つに大別されます。
・細小血管障害(し・め・じ、が合言葉)
・大血管障害(え・の・き、が合言葉)
です。それぞれ、詳しく見てみましょう。
細小血管障害は、文字通り、比較的細い血管の障害です。三大合併症として、
・し=神経。糖尿病性神経症
・め=眼。糖尿病性網膜症
・じ=腎臓。糖尿病性腎症
が有名です。
し:手足などの末梢組織の毛細血管の障害。周囲の神経に血流が不足し、神経細胞の機能が低下します。糖尿病性神経症が進行すると、指先や足裏など、末梢組織の感覚が無くなります。ガビョウなどを踏んだり、紙で手を切っても気付かず、知らぬ間に重度の細菌感染になってしまうことも。
め:眼球にある網膜組織の毛細血管の障害。網膜症が進行すると、糖尿病性網膜症と呼ばれ、視野の一部が欠ける視野欠損、その先には失明に至ります。糖尿病性網膜症は中途失明の原因の第一位です。
じ:腎臓にある毛細血管の障害。糖尿病性腎症が進行すると、慢性腎不全となり、透析に至ります。透析になると生活の質QOLは著しく低下します。糖尿病性腎症は透析導入の原因第一位です。
この細小血管三大合併症(しめじ)の予防には、血糖値の“アベレージ(平均)”である空腹時血糖をコントロールすることが重要と考えられています。
大血管障害も文字通り。比較的太い血管の障害です。三大合併症として、
・え=壊疽。閉塞性動脈硬化症(ASO:エーエスオー)
・の=脳。脳血管障害(脳梗塞)
・き=心臓。虚血性心疾患(心筋梗塞や狭心症)。
が有名です。
え:足に流れる血管の動脈硬化が原因。膝から下の感覚が乏しくなったり、一部の組織が壊疽(えそ:腐ってしまうこと)したりすることも。
の:脳に流れる血管の動脈硬化が原因。脳梗塞により、身体の麻痺などを来すことも。
き:心臓に流れる血管の動脈硬化が原因。心筋梗塞、狭心症により、突然死することも。
この三大大血管障害(えのき)の予防には、血糖値の“スパイク(ピーク)”である食後血糖値をコントロールすることが重要と考えられています。
これ等に対して、主な治療法は、
・運動療法
・食事療法
・経口血糖降下薬
・インスリン注射
等が、主な治療法でした。これに加え最近では、
・GLP1受容体作動薬
・SGLT2阻害剤
など、比較的新しい処方薬も認識されています。
これらの治療により、血糖コントロールが十分にいけばよいのですが、残念ながら、効果が限定的な患者の方がいるのも事実です。
その様な方に対しては、24時間血糖値モニタリングシステムが有効です。
アボット・ジャパンが提供する、FreeStyleリブレという製品で、実際に、Amazonや楽天などの大手通販サイトで購入が可能です。
24時間血糖モニタリングシステムにより、
・平均血糖値 → 細小血管障害を予防(し・め・じ:神経症、網膜症、腎症)
・食後血糖値 → 大血管障害を予防(え・の・き:ASO、脳、虚血性心疾患)
がリアルタイムに分かります。
・何を飲み食いしたら、血糖値のスパイクが上がるのか。何なら食べても良いのか。
・食後、ウォーキングを何分したら、階段をどれだけ上がったら、血糖値のスパイクを抑制できるのか。
・薬剤の効果がどの様になっているのか。
等、生活習慣や使用薬剤の答え合わせが、より正確に出来るようになるのです。
従来の健康診断などでは、HbA1C(ヘモグロビンエーワンシー)や、グリコアルブミンなど、が指標でした。
これは1ヶ月程度の生活習慣の全体評価であって、日常生活の一つ一つの正解/不正解の判断には直結しませんでした。
しかしながら、24時間血糖モニタリングシステムでは、食事や運動、薬剤といった日常生活の一つ一つの正解/不正解が一目瞭然です。
新しい指標として、TIR(Time In Range)という概念も提唱されています。[1]
TAR (Time Above Range):血糖値が<70mg/dlの時間
TIR (Time In Range) :血糖値が70~180mg/dlの時間
TBR (Time Below Range):血糖値が180<mg/dlの時間
24時間のうち、TIRの時間が70%以上を目指すと、HbA1Cが7.0以下に相当すると言われています。
既に、細小血管障害、大血管障害を伴う患者に対しては、TIRの時間が50%以上で良い、とマイルドな基準も設定されています。
Free Style リブレ自体は、欧米で使用実績が多いですが、日本人に対してもデータがります。代表的には、
通称SHIFT試験(Study of HypoglycemIa using FreesTyle Libre)では、日本人30,000人に対する観測データが好評されています。原著論文は此方。[2]
装着するだけで、生活習慣の見直しになり、従来の測定指標であったHbA1cも7.46%→7.07%に低下した、と記載があります。
これに加えて、各種薬剤などの治療を効果検証すると、非常に良さそうです。
当院での5デアザフラビン(TND1128)の観察研究にも導入してみようと思います。
実際の症例報告については、またの機会に。
[1] 日本先進糖尿病治療研究会雑誌 Vol.16(1):17-27, 2022 https://www.jstage.jst.go.jp/article/asindtj/16/1/16_17/_pdf/-char/ja
[2] J Diabetes Investig. 2021 Jan;12(1):82-90. doi: 10.1111/jdi.13327. Epub 2020 Sep 9. Effect of the FreeStyle Libre™ flash glucose monitoring system on glycemic control in individuals with type 2 diabetes treated with basal-bolus insulin therapy: An open label, prospective, multicenter trial in Japan