幹細胞/再生医療とは

2023.02.19 更新

再生医療という言葉が何かを説明は出来ずとも、聞いたことがあるという方は多い筈。

この再生医療、実質的には幹細胞を用いた治療、幹細胞治療のことを意味します。

幹細胞を用いることで、組織や臓器の再生が可能となり、生命個体が失った機能を取り戻せる可能性が検証されています。

この幹細胞について、ここでは解説していきます。

 

 

まず、幹細胞の定義から抑えていきましょう。

以下の二つの性質を持つ細胞であると、厚生労働省の資料(平成22年)にも明記されています。

①自己複製能:自分と同じ能力を持った細胞を複製する能力

②多分化能:異なる系列の細胞に分化する能力

の二つ。下図でも、「自己複製」の表現と、各系列への「矢印」が記されています。

ここで、「ん?」と思った方は、鋭いです。「細胞に系列ってあるの?」と。

私たちがたった一つの細胞だった頃、受精卵の状態から、細胞がどう変遷していくのかを見ていきましょう。

専門的には「発生学(はっせいがく)」と呼ばれる学問です。

 

精子と卵子が受精して、一つの細胞、受精卵が出来ます。これが細胞分裂をして、現在の私たちの身体を構成しています。

そう、最初の受精卵から、皮膚の細胞、筋肉の細胞、消化管の細胞、神経の細胞、血液の細胞、等、多くの種類の細胞が生じています。

まるで、一本の大木が、幹(みき)から、各種の枝や枝葉の様に分かれていく様に。

この「幹(みき)」という意味が、「幹細胞(かんさいぼう)」の名前の由来です。

そして、それぞれの系統の細胞の性質を帯びることを、「分化(ぶんか)」と呼びます。

この段落の6行は、今後、再生医療に纏わる新聞や記事を読み解く際の基本となるので、イメージをしっかりと持って下さい。

 

 

改めて、幹細胞の定義を振り返ってみます。

幹細胞とは、ありとあらゆる細胞になることが出来(②多分化能)、なおかつ、数が減らない(①自己複製能)細胞のことです。

夢の様な細胞です。そして、この幹細胞が、当たり前の様に私たちの身体の中にある訳です。

これを活用して、「失った組織や臓器を再生し、失った機能を取り戻そう」というのが、再生医療なのです。

これは未来の夢物語の医療ではなく、現実に行われている医療の話です。

ただし、過去、野放図な再生医療の実施があった経緯から、現在は再生医療法が整備され、厚生労働省に届出をした通りの手順を踏まなくては実施が出来ません。

(銀座アイグラッドクリニックの届出No.は●●です。)

 

 

幹細胞を分類してみましょう。

一つの細胞から全ての細胞に分化して、一つの生命個体を形成出来る能力を「分化全能性を有する」と言います。

この能力を有するのは、受精卵から3回細胞分裂した細胞(8細胞期)までの細胞にのみ備わる能力です。

これらは、全能性幹細胞とも呼ばれます。

 

一方で、一つの生命個体を形成は出来ないけども、あらゆる細胞に分化することが出来る能力を「分化多能性を有する」と言います。

この能力を有する幹細胞のことを、多能性幹細胞と呼びます。

一般に、受精卵から得られるES細胞(胚性幹細胞)や、人工的に作り出すiPS細胞(人工多能性幹細胞)が知られています。

 

これらの多能性幹細胞は、

・内胚葉(ないはいよう):消化器系統(内臓全般)、など

・中胚葉(ちゅうはいよう):筋肉や血管、心臓、など

・外胚葉(がいはいよう):皮膚や、脳脊髄などの神経、など

という3つの系統にそれぞれ分化していきます。

 

その結果、皮膚には皮膚の、血液には血液の、消化管には消化管の、神経には神経の、その組織における分化の大元となる幹細胞となります。

これらの、特定の各組織の中では多能性を有し、その組織の中ではどんな細胞にもなることが出来るが、他の組織の細胞になることは出来ません。

この様な特徴を備えた、各組織に存在する幹細胞のことを、組織幹細胞と呼びます。

別名、体性幹細胞や、成体幹細胞などとも呼ばれることも。

 

余談ですが、“がん”にも、がん幹細胞なるものが存在します。

抗がん剤などでやっつけることが出来るのは、通常の“がん細胞”であって、“がん幹細胞”に対する効果は限定的と言われています。

この“がん幹細胞”について研究することは、がん治療にとって大きな意味を持つのです。

 

 

ここまで、幹細胞の大まかな分類について見てきました。

この中で、実際に、治療に活用出来るのは、組織幹細胞の一択です。

全能性幹細胞は、受精卵~8分割するまでの状態を意味するので、流石に生命倫理に反します。

多能性幹細胞としては、ES細胞(胚性幹細胞)とiPS細胞(人工多能性幹細胞)のに種類がありますが、何にでもなれるということは一歩間違うと“がん化”してしまうことを意味します。

安全面での懸念から、この二種を扱う場合には、再生医療法I種の資格を取得しなくてはなりません。

2023年の段階で、トップレベルの大学病院や研究所を除き、再生医療法のI種を取得した民間病院はありません。

すべからく、再生医療法のII種免許の取得(当院●●●)で実施が可能な、組織幹細胞を活用した治療が現実的となります。

この再生医療法に違反した結果、逮捕者がでた事例もあります。

それぐらい、再生医療とは素晴らしいものである反面、その取扱いには厳重な管理が必要なものでもあります。

 

 

組織幹細胞を詳細に見ていきましょう。存在する組織に応じて、各種名称も異なります。

・造血幹細胞 : 骨髄

・歯髄幹細胞 : 歯髄

・脂肪幹細胞 : 脂肪

・神経幹細胞 : 神経

・生殖幹細胞 : 精巣・卵巣

・腸管幹細胞 : 小腸・大腸

・乳腺幹細胞 : 乳腺

・肝幹細胞  : 肝臓

・上皮幹細胞 : 皮膚、粘膜上皮

・血管内皮幹細胞 : 血管(http://www.biken.osaka-u.ac.jp/achievement/research/2018/116

等。

 

上記の表では、それぞれの組織幹細胞から同系統の細胞にしか分化出来ないことを意味しますが、例外が存在します。それが、

・間葉系幹細胞 : 脂肪・骨髄・臍帯・胎盤・羊膜・臍帯血・月経血など

です。

この間葉系幹細胞は、中胚葉由来でありながら、他の系統である内胚葉由来の内臓組織や、外胚葉由来の神経などに分化することが可能です。

多能性幹細胞(ES細胞、iPS細胞)と組織幹細胞の中間の性質を持つことから、実臨床では非常に期待されています。

 

歴史的には、1970年にその存在が指摘され、1999年にヒト骨髄中で存在が確認されました。

現在は、皮下組織(脂肪)や筋肉、骨、軟骨などの結合組織中に存在することが確認されています。

その中で、最も採取しやすいとされるのが、脂肪由来の間葉系幹細胞です。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/numa/75/2/75_61/_pdf/-char/ja

この脂肪由来の間葉系幹細胞を活用した実際の治療については、また後日。

幹細胞培養上清液を用いた治療については、此方を参照下さい。